「噂の発端」

(「ある夜コソ泥が見てしまったものは」その後)

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 外交官のからんだ武器密輸事件も、ボーディとドイルの働きで無事解決し、報告書をまとめたボーディはそれを部長に提出していた。
 ふと、部長はボーディの横に当然いる筈の、彼の相棒がいないのに気がついた。報告書にサインをし、机の引き出しにしまい込みながら、部長が口を開いた。

 「おい、ボーディ。ドイルはどうした」
 「マージィねーさまのとこですよ。えらく気に入られてますからねぇ、ドイルは」
 「大丈夫か?ほっといても」
 「なーに、マージィだってそれ程無粋じゃありませんよ。ドイルがきっぱり断りゃ、後は何もせんでしょうよ」
 「断れると思うのか?ドイルに」
 
 部長の鋭い指摘にボーディが焦る。
  
 「…(汗)。あいつだって男です。どーかしますよ(汗)」
 「ほぅ。お前もマージィの姉御だけは苦手と見えるな」
 「あの手の女はパスします。ドイルに譲りますよ。じゃ、失礼します」
 
 これ以上ここにいたら、何を言われるかわからんと言った様子でボーディはそそくさと部長の部屋を出た。

 
 部長の部屋を退散したボーディが本部の建物を出ようとしたら、入り口のところでばったりドイルと出くわした。
 ぐったりしてる様子のドイルはボーディの姿を見つけたとたん、情けなさそうな顔でぼやいた。

 「ボーディ〜〜、どうにかしてくれよ〜〜〜」
 「男だろ。自分でどうにかしろ」

 ボーディは冷たい。

 「あ、見捨てる気か?お前、女にゃ強いんだろーが!」
 「マージィ姉御だけは別だ。それに年上の女にリードしてもらうってな理想的だろーが」
 「俺は15や16のガキじゃねぇ!ボーディ〜〜〜〜」
  
 ドイルがボーディに泣きつく。ボーディはため息。
 
 「んじゃ、恋人が居るとでも言ったらどうだ?」
 「そーゆーごまかしが通用する相手か?それに俺、恋人なんかいやしねーぜ」
 「GFのひとりや二人いるだろーが」
 「そりゃ…」

 困った顔のドイルにボーディがいたずらっぽく言った。

 「ま、がんばってみんだな」
 「…。」

        


 次の日、今日も今日とてお仕事の後で、しっかりマージィに捕まったドイルは車に引っ張り込まれて迫られていた。来なかったら押しかけるわよ、と、マージィに脅しを入れらていたので、逃げるわけにも行かなかったのだ。
 
 「ドイル、あたしの可愛い小鳥ちゃん♪元気だった?」

 せまって来るマージィにたじたじのドイル。マージィを嫌いなわけではないが、女の色気そのままと言うのも苦手である。それで、とうとうマージィから逃れる為、ボーディの言ってた手を使うことにした。
 マージィの顔をじっと見つめ、おもむろに口を開く。

 「マージィ…。話があるんだ」
 「なーに♪」

 マージィもじっとドイルを見つめる。
 
 「実は、俺…」 
 「実は、何?」

 なおもせまって来るマージィ。ドイルは勇気を奮い起こした。

 「恋人が居るんだ」

 突然のドイルの告白に面食らったマージィであったが、そこはマージィねーさま、やきもちなど焼いたりしない。それどころか母性本能なんぞを発揮したりする。

 「まっ!恋人?どんな女なの?一度連れてらっしゃい。あたしが見てあげるわ。変な女だったら大変ですものねぇ」
 
 まるでお袋のようなマージィの態度にドイルがへたる。連れて来るGFはいる事はいるが、どうもこの程度ではマージィを誤魔化せそうにない。

 「あの…」
 「なあに、ドイル。言いたい事があったらはっきり言いなさいな」
 「あのね、マージィ、恋人ってのはね…」

 うだうだと言う事で時間を稼ぎながら、ドイルはうまいごまかしを考えていた。

 「恋人って言うのは…」
 
 苦し紛れにドイルが言った。
 
 「男なんだ…」

 一瞬きょとんとするマージィ。が、すぐに気を取り直してマージィはまじまじとドイルを見つめた。

 「男?それじゃ、あなた」
 「…そうなんだ…」

 人は見かけに寄らないといった風にドイルを見つめながらため息をつくマージィ。でも、マージィねーさまはこれぐらいでへこたれはしない。
 
 「誰?その恋人って」
 
 マージィに詰め寄られ、ドイルは仕方なくボソッと言った。
 
 「マージィもよく知ってる奴」
 
 といえば一人しかいない…。
 
 「…。まさか、ボーディ…?」
 「そう。…(ボーディ、許せ!)」
 
 心の中でボーディに謝りながら、ドイルが頷いた。
 
 「あの目付きのせこいぼーやなの?」
  
 マージィにかかればボーディすらもぼうや扱いである。その上、どうもマージィはボーディに対していい印象を持っていないようである。
 
 「ボーディはいい奴だよ。マージィが思ってるような奴じゃないよ」
 「…。そう。…あなたが言うなら信じましょ。で、ボーディは優しい?」
 「ああ」
 「そう」

 内心たら〜〜と冷や汗をかきながら答えるドイルにマージィはため息をついた。
 ボーディが知ったらぶっとばされるだろうな〜〜、と思いながらも、ドイルはこれでどうにかなるだろうと安易な事を考えていた。
 
 

 それから数時間後。
 ここはボーディのフラット。任務も終え、ここんところくに眠っちゃいなかったので、今日は早々に寝てしまおうと思っていた時である。
 ♪リーン♪
 これが鳴るとろくなことがない、という電話のベルが鳴った。
 
 まさか、また仕事じゃねーだろーなー。とびくびくしながらボーディが受話器をとる。
 
 「はい、ボーディ。…。え?マージィから電話?…。いいよ、繋いでくれ。…………マージィ?…?何?すぐ来いって?…。またなんで。……ああ、わかったよ、じゃ行くよ」
 
 不思議そうな顔で受話器を置くボーディ。なんで自分がマージィに呼び出されなければならないのか。
 とりあえず、怒らせたら面倒な姉御である。ボーディは訳のわからぬままに服を着替え、車に乗るとマージィの家へ急いだ。
 
 どう言うわけかボーディはマージィによく思われていない。女に強い筈のボーディもマージィねーさまだけは苦手である。マージィに家に着いてからも、どちらかといえばいやそーに家の中へ入っていった。
 
 「よっ、マージィ。俺に用って?」
 
 勤めて明るいボーディに冷たい一瞥を与えマージィがため息混じりに喋りだした。
 
 「あたしの可愛いドイルが、今日、俺には恋人がいるってあたしに言ったの」
 「ほう、あいつに恋人ねぇ」
 
 あいつ、とうとうやったのか、と、内心ほくそえみながらとぼけるボーディ。マージィの目が鋭く光る。
 
 「しらばっくれる気?ボーディ」
 「へ?何が?」
 「その恋人ってあんたでしょうが!」 
 「!?☆…。俺!?」
 
 あまりといえばあまりに意外な言葉にボーディが驚いた。それこそ鳩が豆鉄砲を食らったように…。
 
 「あんた達にそういう趣味があったとは知らなかったわ、ボーディ」
 「ちょっと待ってくれ、マージィ。何か勘違いしてんじゃねぇの?」
 
 平然と言い放つマージィに、焦るボーディが食い下がる。
 
 「ボーディ!往生際が悪いわよ!いい事?ドイルを泣かせたら承知しないわよ!母親みたいによーく面倒見てやんのよ!」
 「へ〜へ〜」
 
 これ以上逆らえば怖い。ボーディはしぶしぶ返事をした。が、心の中ではふつふつとドイルに対して怒りをたぎらせていた。 
 あのやろ〜〜〜〜、ドイルの大ボケめ〜〜〜〜。とっ捕まえて締め上げてやる!!
 
      


 次の日。
 本部でばったり顔を会わせたボーディとドイル。ボーディの険悪な表情を見た途端、ピンと来たドイルは素早く逃げようとした。が、ボーディの方が早かった…。
 
 「ちょっと待て、ドイル!」
 「何の用で、ボーディさん」
 「お前な〜〜〜〜、言うに事欠いてありゃなんだ!誰がお前の恋人だ!!」
 「だって、女の名前出したって無駄だと思ったんだよ。だから俺がそっちの趣味の人間だってわかりゃ、マージィだって諦めてくれるだろうと思って」
 「だからってなんで俺の名前を出さなきゃならねぇんだ!」
 「とっさにお前しか浮かばなかったんだよ!」
 「…。」
 
 必死で弁解するドイル。あほらしさに声も出ないボーディ。だが、ここで不毛に言い争ってもしかたがない。
 
 「わかったよ。悪気があったわけじゃねーんだろうから」
 「すまん!」
 
 どうやってもドイルには甘いボーディだった。
 
 
 で、その日のトレーニングも終え、ホッとひと息の二人のところにマイクがにやにやしながら寄ってきた。
 
 「よ!お二人さん、いつも仲の良ろしいこって」
 「どーゆー事だ?マイク」
 
 けげんそうな二人。
 
 「聞いたぜ〜。お前ら、そういう仲だったんだって?」
 「…。そーゆー仲って?」
 「おや、ボーディとぼける気かよ。出来てんだろ?お前ら」
 「!!」
 
 とんでもない事をあっさり言ってくれるマイクに、ボーディは唖然とし、ドイルは食って掛かっていた。
 
 「誰がそんなことを!」
 「ルイスの奴さ。お前らがいちゃついてんの、見たんだとよ」
 「いつ!」
 「この間の金曜日」
 
 金曜日といえば、あの本部の入り口でドイルがボーディに泣きついた日である。どうもルイスはあれを見たらしい…。それで、出来てるとは、ちょっと話が飛躍しすぎてはいまいか…。
 
 「あれがいちゃついてるように見えたわけか…」
 「ま、ロンドンでも珍しかねぇけど。進んでんな、お前ら」
 「…、マイク、誤解だ…」
 
 反論を試みるドイル。その横でずし〜〜〜〜と落ち込むボーディ。
  
 「テレるこたねぇだろうが、ドイル。ん?どうした?ボーディ。図星指されて声も出ねぇってか?ンじゃま、仲良くやってくれや」
 「マイク!誤解だってのに〜〜〜!」
 
 立ち去ろうとするマイクにドイルが必死で叫んだが、マイクの耳には届いていなかった。
 
      


 それから2、3日後。
 
 ある任務についた二人は以外に簡単だったその任務を終え、部長に結果を報告していた。
 
 「―――――。以上、報告終わり。詳しい事は報告書で提出します。じゃ、部長、俺たちこれで」
 「ちょっと待て、二人とも」
 「何か?」
 
 また何を言われるのだろうと、一瞬びくつく二人。
 
 「ちょっと小耳にはさんだのだが…。お前ら出来とるそうだな」
 「!!!」

 おっそろしい事をいともあっさり言ってくれる部長に二人とも唖然とする。すぐ正気に戻ったボーディが部長の性格の怖さに思わずおののいている間、ドイルは部長に食って掛かっていた。
 
 「どっからそんな事聞いたんですか!」
 「噂になっとるぞ。それに、マージィの姉御からも電話があってな」
 「違います!あれはマージィを誤魔化す為に言ったでたらめです!」
 
 ドイルが必死に反論するが、部長は下手な弁解は聞きたくない、とでも言う風に、片手を挙げてドイルを制すると、またもやあっさりふたりに止めを刺してくださった…。
 
 「何にしろ、ほどほどにしておけ。任務に差し支えるようなら二人ともCI☆5から追い出すぞ。部下に変態は要らんからな。それだけだ」
 「ぶちょ〜〜〜」
 「…。」
 「もう帰っていいぞ」

 焦るドイル。落ち込むボーディ。それを無視し知らん顔の部長。
 
 どっと疲れた二人は、ぐったりとして部長の部屋を後にした。
 
 「オヤジも結構のるんだ…」
 「こーまで見事におちょくられるとは思わんかった…」
 
 あほらしさに頭を抱え込むボーディ。己がまいた種とは言え、ドイルも落ち込むしかない。
 二人して暗〜く顔を見合わせると、海より深いため息とともに、それぞれの家へ帰っていった。
 
 
 後日、このとんでもない噂は二人が否定する間もなく、悪乗りが身上のCI☆5の連中に浸透して行ったのである…。
 


言い訳タイム

いや〜〜〜、骨董もののショートを引っ張り出してしまいましたよ。
当時、洗濯物を干しながら、ドイルはどうやってマージィから逃れたのかを考えてて思いついたネタです。
いろいろ細かいところは突っ込まないで下さいね。